深瀬でくまわし 米・人形劇専門誌に!

 Claudia Orensteinさんによる深瀬でくまわしの記事がアメリカの人形劇専門誌PUPPETRY INTERNATIONAL FALL and WINTER 2022 に掲載されました。



クラウディアさんはニューヨーク大学ハンターカレッジで演劇を教えていらっしゃいます。フルブライト財団の支援を受けて2021年秋に来日、2022年夏にかけて日本各地の人形劇を調査されました。今回の記事はクラウディアさんが2022年4月22日から25日、深瀬のでくまわしのふるさと石川県を訪れたときの記録です。環境についての特集号ということで、白山麓一帯の自然環境と深瀬地区の特性を考察し、深瀬地区がでくまわしを継承することができた環境的要因を論じています。

以下、記事の抄訳とかつての深瀬やクラウディアさん訪問時の写真です。



350年前石川県の山間部にある小さな村は、そのパフォーマンスの伝統が今日も続くユニークな人形劇の発祥の地となった。その起源は、一般的に語られるには、豪雪地帯として知られるこの地域の雪と長い冬に起因している。

 




その起源の物語とは。ある人形遣いの一団がこの地域を訪れるが、大雪に逢い、その村で立ち往生し、春の雪解けまで移動したり家に帰ったりすることができなくなった。深瀬村の人々は、人形遣いを哀れみ、寒い季節に彼らを家に迎え入れ、食事を与えた。このお礼に人形遣いらは彼らの芸術を教えると、人形芝居のセットを残し去った後何世紀にもわたって続く、旧正月を祝うための毎年恒例のエンターテイメントになった。 

この小さな村が人形劇の芸術を取り入れるだけでなく、長い間それを維持することができたのは、深瀬の自然環境などの要因による。隣接する村では、冬季を除き、一家で居住地裏手の山腹を上って出作り農地へ移動していた。前年の畑を燃やした後、彼らは一連の年周期で異なる作物と地域の主食である米の耕作を繰り返していた。ところが、深瀬は急勾配の谷にあり農業に適さない。しかし、豊富に自生する桧の強みがあった。村の別の伝説は、僧侶が村にやって来て、桧から薄く削り出された木のひごを作り、籠や、太陽、雨、雪からの保護として農民などに不可欠な三角形の帽子である桧笠など、さまざまな製品に編み上げる方法を地元の人々に教えたと伝える。
クラウディアさんと桧細工伝統工芸士であり木偶回し保存会会員の香月久代

 

「伝統」と呼ばれるものはしばしば遥か昔から存在していた、あるいは始めから決まりきっていたように思われている。舞台芸術、特に深瀬のでくまわしに見られる複雑な構成要素の混合、を作り上げ、継承するのに必要となる努力は忘れられがちである。 

年に一度の上演であっても、人形遣いが練習するために、語り手が物語を学び、練習するために時間を必要とする。また、人形の華やかな衣装や髪型を整えるための資金も必要となる。この地域のほかの村では季節の農作業に追われ、このような楽しみを持つ時間的余裕も金銭的余裕もなかった。

 

白山ろく民俗資料館で白山麓の村々の出作り農業と桧笠生産が地域に与えた影響について学びました

 

深瀬の桧笠生産は、彼らが人形劇の伝統を維持するのに役立つ多くの利点を村に提供した。この手工芸は熟練を必要とするが、学ぶことはそれほど難しくなく、すべての住民が村の主力産業に加わる方法を簡単に見つけることができた。したがって、村の富は世帯間で均等に分割され、江戸時代の階層と経済的分断裂が強力な、寺院を中心とした隣接する村々よりも平等な社会が作り上げられた。

 

でくの世話をする女性たち 記事全文には92歳の河岸ときさんが雪道を歩いて鶴来までかんざしを買いに行った思い出話も



 日本の多くの田舎の村が劇的な文化的変革を遂げ、近年、人口減少の憂き目を見ている。深瀬の運命は格別であり、再び環境的要因による影響を受ける。1970年代、その村は完全に破壊された。近隣の金沢市の人口増に応え、積雪によってもたらされるこの地域の豊富な水を供給できるダムを作るために意図的に沈められた。 


ダムサイドの水栓 絶え間なく流れる水は今でも故郷の味

 

深瀬でくまわしは、生まれ、育まれてきた山里から切り離されたが、日本の国家無形文化財の1つとなり、守るべき新しいアイデンティティを保有した。日本の重要な文化遺産の維持は、第一にその保存と継続に献身する地元の人々に懸かっている。深瀬木偶回し保存会のメンバーは、大部分が60年代後半、70代以上だ。元深瀬の村人もいれば、友人に連れられて参加した人もいる。

コミュニティ精神と同志は、人々を人形に引き付ける要素となっている。ダムの建設から半世紀後、彼らは街での生活、そして現代的な文脈の中で伝統を築く方法を模索し続けている。

でくまわしは、人形の円を描く動き、人形遣いの踏み鳴らすリズム、人形の刺激的な顔と個性、そして古くの叙事詩的な物語の物憂げな詠唱に、ユニークで魅惑的な美しさがある。これらの表現が、今日の慌ただしく生きる観客の心を捉え、過去の村の祭りを想起させる。 

 

深瀬新町木偶回し保存会館にて


クラウディアさんの訪日期間、世相はまだコロナに過敏でした。慶びの中でこそ開催されるべき伝統行事は中止が相次いでいました。予定していた研究が叶わないことも数多くあったことでしょう。伝統的に冬に行なうでくまわしは今後もコロナ禍の影響を受けることとなりますが、ご縁あって世界に向けてご紹介賜ることとなりました。厚く御礼申し上げます。

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