令和7年定期公演 熊井太郎孝行の巻あらすじと見どころ

「熊井太郎孝行の巻」は源義経の家来、熊井親子(父ゆうけん・長子太郎左衛門友治・次子喜三太)の物語です。義経伝説に基づく「判官物」は人形浄瑠璃のテーマとしてたいへん好まれたようで、今でも日本各地の古浄瑠璃の団体に受け継がれています。深瀬木偶回し保存会は判官物を3タイトル保存しています。深瀬「でくまわし」とともに国指定重要無形民俗文化財「尾口のでくまわし」を構成する東二口「でくの舞」とはいくつもの演目を共有していますが、「熊井太郎孝行の巻」は深瀬地区でのみの上演となります。


あらすじと見どころを場面ごとにまとめました。印刷用PDF

 

■初 段 

五条橋での弁慶と牛若が対面する物語。近松門左衛門「牛若千人切り」の内容に酷似している。※当日は上演しません。

 

■第2段

  平重盛(小松大臣とも)は旱魃、飢饉で苦しむ民のために住吉大神宮へ参詣に向かう。道中、幼い孫を連れた老人・熊井ゆうけんが家宝の刀を買い取って欲しいと申し出る。重盛はその刀は名刀であるから大切にするよう言い、十両の金を渡して返す。

  ゆうけんはありがたいと喜び帰路につくが、重盛の家来の関ヶ原の与市に襲われ金も刀も奪われてしまう。

  ゆうけんには2人の息子友治、喜三太がいるが貧しく暮らしている。その日の生活にも困り、友治の妻すさきの前(北の方とも)は髪を売ったという。そこへゆうけんが帰宅し、熊井の家はもう終わりだと嘆くが、友治は源氏再興のための密命を受けたことを明かす。そのうち良い知らせが届くから安心しろと、妻に家を任せ都へ向かう。

  友治、喜三太兄弟は都を目指すが、密命はでまかせだという。

  住吉大神宮で重盛が祈りをささげると、波が打ち、風が吹き、大地が揺らいだ。重盛は動じることなく、平家もこれまでと悟る。

 

■第3段

  住吉大神宮での凶事は噂や歌で広まっていた。武蔵坊弁慶は人々の不安に乗じて、都中に平家を中傷する札を立てる。

  浄海(平清盛)は息子たちから参詣の報告を受けるが、長男重盛からは政道を改めるよう諫められる。浄海が諫言に立腹すると、目の前で次男、三男の御祓いの品物が燃えてしまう。

  伊賀の平内左衛門成景が弁慶の立て札について知らせる。犯人には懸賞金がかけられる。

  上京した熊井兄弟は立て札の犯人に懸賞金がかけられていることを知る。兄弟は一方を訴人し一方が懸賞金を得ることを思いつく。問題はどちらを訴人するかである。

熊井太郎「孝行」の物語の幕開け。

 

■第4段

  喜三太は熊井の家に黄金500両と友治の手紙を持ち帰る。

  夫(浄瑠璃は「つま」と読む)からの手紙を読んだすさきの前は友治が死んだと思い、後を追おうと自死を決める。

  喜三太らはすさきの前を探すが、時すでに遅く、すさきの前の体は冷え切っていた。ゆうけんは喜三太を問いただし、再び都へと向かわせる。

  友治は六条河原で処刑されようとしていた。弁慶が乱入し友治を救出する。

 

■第5段

  熊井親子は弁慶の計らいで牛若との対面を果たす。

  牛若ごうの姫道行 坦々とした「みちびき」の節は深瀬のでくまわしの浄瑠璃表現の特色。

③牛若とごうは関ヶ原の与市の一行に見つかってしまうが、追ってきた熊井兄弟と弁慶に助けられる。熊井兄弟は与市から家宝の刀を取り返す。「攻め」の節の盛り上がる場面では客席に向かって飴がまかれる。